【叶家のうわさ】親子をつなぐ女将・後編
2025.06.24
まずツネ子は、何も聞かずに二人を同じ部屋へ通しました。
そして夕食時、さりげなく「今夜は特別に“親子鍋”を作ったのよ」と言って、二人の前に湯気の立つ鍋を運びます。
「親子だからって、鶏と卵の話じゃないのよ。ちゃんと一緒に煮込めば、また仲良くなるの。ね?」と笑うツネ子。
最初はぎこちない空気が流れていましたが、箸が進むにつれて少しずつ言葉が増え、笑顔がこぼれ、やがてぽつりぽつりと話が始まりました。
「ツネ子さんがいなかったら、たぶん何も言えなかった」
翌朝、そう話してチェックアウトしていった二人の背中は、どこか似ていました。
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それからというもの、叶家には「縁が戻る宿」といううわさが流れるようになったのです。